大判例

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大阪地方裁判所 昭和28年(行)49号 判決

原告 岩切克修

被告 天王寺税務署長

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告は被告が訴外市川裕三名義にかかる天王寺局五〇五九番の電話加入権に対して、なした国税滞納処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求めその請求原因として、原告は訴外市川裕三事市川真二に対し、昭和二十七年十一月二十日弁済期を昭和二十八年一月三十日として、金二十万円を貸与し請求趣旨記載の電話加入権につき売渡担保権を設定し引続き弁済期限後も同人をして無償使用せしめていたところ、被告は昭和二十八年五月十九日附で右電話加入権を同訴外人に対する昭和二十七年度所得税第二及び第三期分合計一万六千百二十円の滞納処分として差押えた。よつて、原告は被告に対し再調査の請求をなし、更に大阪国税局長に対し審査の申立をしたが右電話加入権の譲渡につき電話公社の承認及び登録がなかつたことを理由としていずれも棄却せられた。しかしながら、本件電話加入権は前記売渡担保契約によつて原告が譲渡を受けたものであり、且つ、譲渡に関する電話公社の承認、登録等はいずれも第三者に対する対抗要件に過ぎないが、行政処分としての滞納処分は対抗要件の具備如何にかかわらず、真実の権利者の財産に対してなされねばならないにもかかわらず、本件滞納処分は右訴外人に対する租税債権に基き、原告の電話加入権に対してなされたものであつて違法なること勿論であるから右滞納処分の取消を求める為本訴に及んだとのべた。

被告指定代理人は主文第一、二項と同旨の判決を求め答弁として被告が昭和二十八年五月十九日附で、原告主張の電話加入権を、訴外市川裕三に対する原告主張通りの税金の滞納処分として差押をしたこと、及び原告が被告並に大阪国税局長に対し夫々再調査及び審査の申立として、棄却せられたことはみとめるがその余の事実は不知と述べ、仮りに原告主張の如く、譲渡担保契約によつて、原告が本件電話加入権を訴外市川裕三から譲受けたとしても、右譲渡については電話公社の承認を受けていないから右譲渡は無効であると述べた。

三、理  由

被告が昭和二十八年五月十九日訴外市川真二名義の天王寺局五〇五九番の電話加入権を同訴外人に対する昭和二十七年度所得税六万五千八百七十円の滞納処分として差押えした事については当事者間に争いがない。

而して原告は右電話加入権は昭和二十七年十一月二十五日原告が訴外市川に対する貸金二十万円の譲渡担保として同訴外人から譲受けたものであると主張するのに対し、被告は右譲渡を否認するものであるから、先ず問題は電話加入権の譲渡の方法及びその効力の発生時期を如何に解すべきかと云う事にかかる。

電話加入権を加入者の電話公社に対する私法上の一種の債権と見るときは、その譲渡の方法は民法上の債権の譲渡と同様に当事者間の契約により且つ譲渡の意思表示によることとなり、その譲渡の効力は右譲渡の意思表示のみによつて発生すべきものとなつて、電話公社の承認乃至加入名義の書換は右譲渡について電話公社乃至第三者に対する対抗要件たるに過ぎないものと解せざるを得ないであろう。

併しながら所謂電話加入権と呼ばれるものは加入者が公社の施設たる電話設備を利用し得ると云う営造物の使用関係の外ならないのであつて、右利用関係の成立は、加入者と公社との契約に基くものではなくして、公社の一方的施設使用の許可の関係であるから、その関係は公法関係なのである。尤も公社はその施設の許す限り何人に対しても、この利用を許すべき負担を負い、斯くて成立せる利用関係は公社が恣意的、一方的に廃案することを得ないことから、これを加入者の側から公権として把握する事も可能ではあろうけれども、それは飽くまでも右加入者の地位の一面であつて、反面加入者は電話利用に伴う費用を負担せざるべからざる等種々の義務をも負担しているものなのである。従つて右公権として把握せられ得る加入者の地位が社会的経済的に財産的価値を有するからと云つて、そのこと自体より、それが当然に譲渡性を具有するに至るものではなくて、寧しろ逆に右加入者の公義務に対応する公社の立場から、譲渡を差支えないものとして許容する場合に限つて始めて譲渡性が附与せられるに至るものと解すべきである。而してこの理由は電話規則第七条第八条が電話加入権に譲渡性を附与すると共に、特断の事由のない限り私人間の譲渡を認めざるべからざることをも意味するものであるからと云つて、その特断の事由の有無の認定権が公社に存する以上は、右各条が、進んで前段説述の私権と見る場合の譲渡と同一に律する法意であると解すること迄も許すものではない。即ち右各条は私人間に於て電話加入者の地位(電話加入権)を有効に譲渡する契約がなされても、更に右譲渡につき公社の承諾がなければ、譲渡の効力を発生せざることを規定したものと解すべきである。

果して然らば、仮令原告と訴外市川との間の本件電話加入権の譲渡担保契約が有効になされていたとしても、未だ右譲渡について公社の承認がなされていない以上、右電話加入権は訴外市川の有するものであつて、原告は本件電話加入権を取得したものということは出来ないから爾余の点に対する判断をなすまでもなく原告の本訴請求は理由なく被告の本件電話加入権につき訴外市川に対する滞納租税のためにする差押処分は適法である。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 相賀照之 鰍沢健三 小畑実)

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